No.13|自作の「脳トレ」が咲かせた会話の花

ホームでの生活と言えば、「ご入居者がそれぞれ思い思いに過ごしている」というイメージが強いもの。
趣味やご家族との時間など、一人ひとりの生活がクローズアップされることが多いです。

そんなある日、クラーチ・ファミリア稲田堤では、あるご入居者が発案から計画、実践までのほとんどを一人でこなし、ホームに新たな楽しみをもたらしたのです。

今回は、クラーチ・ファミリア稲田堤の新たな取り組み、ご入居者主催の「脳トレ」についてご紹介します。

1.「皆さんの役に立ちたい」――アクティブな気持ちがきっかけになり、脳トレを考案

「僕はね、ここに来て元気になり過ぎちゃったんだよ。パワーが湧いてきちゃってね。何か皆さんの役に立てないかと、毎日いろいろ考えているんだ」

そう語るのは、クラーチ・ファミリア稲田堤に入居されているT様。電機メーカーの研究員として長年勤め、60歳で定年退職。その後、多摩市聖ヶ丘コミュニティーセンターにて20年ほど子どもたちに囲碁や科学の面白さを伝える教室を開いていました。また、知人と山へ行き、植物鑑賞を楽しむなど、アクティブな日々を送られてきたそうです。囲碁(子どもに囲碁を教えるため、多摩市囲碁連盟の理事を担っていた)や植物鑑賞、家庭菜園など多趣味で、人との交流も大好きな方です。

そんなT様は、2023年2月に肺動脈血栓塞栓症にて入院。一時は人工呼吸器を装着していたものの徐々に回復し、2025年にクラーチ・ファミリア稲田堤に入居されました。入居までの間、奥様との別れを経験しつつも、野菜や果物を育てるなど、活発な日々を過ごしていました。

【①ホーム全体への気配り】

入居後の生活は比較的に順調で、車椅子を利用されていましたが自走が可能、食事もご自身で召し上がっています。そんなT様の関心はご自分のことだけにとどまらず、他のご入居にも広がっていました。

そこで思いついたのが、自作の「脳トレ」です。

2.気配りとユーモアがもたらした「脳トレブーム」

元々、クラーチ・ファミリア稲田堤では、ご入居者と共に「脳トレ」の一環として、難読漢字テストなどを行っていました。それを見たT様は、「ご入居者のレベルに合っているのか?」「テストに対し、どれだけの人が答えられているのか?」といった課題に気づいてくださったのです。

ご自身のこれまでの経験や、入居してからの興味・関心から、「入居者のレベルに合わせた問題を作りたい」「継続して参加したいと思えるような脳トレにしたい」と、T様の脳トレ作成が始まりました。T様の「人とコミュニケーションをとるきっかけがほしい」との思いも、脳トレ考案のモチベーションになりました。

【①配慮を尽くした、楽しい脳トレ】

T様考案による脳トレのテーマは、「過去の記憶を辿れば答えられそうな知識から出題する」ということ。認知機能に不安を感じているご入居者でも、思い出すことで難なく答えることができます。
またT様は、「ホーム長の了承を得てからにしないとね!」と、スタッフやホーム側への配慮もしてくださいました。脳トレのプリントも事前にスタッフに見せてくださり、お互いの理解を深めたうえで進めることができました。

【②昔を思い出しながら脳トレに精を出すご入居者の姿も】

T様のアイディアと配慮が活かされた脳トレの反響は想像以上でした。

初回の脳トレのテーマは、野菜の名前。認知機能に苦手意識を抱くご入居者もいますが、クラーチ・ファミリア稲田堤には過去の主婦としての経験から野菜には詳しい方も多くいらっしゃいます。
「主婦ですもの、結構わかりますよ」と次々に回答していく方、「実家が農家をしていたから詳しいのよ」と自信を見せる方など、思い思いに楽しんでおられました。問題を解くうちに昔の記憶も呼び起こされ、想像以上の高得点を取られて喜ぶ方も。

脳トレの採点パターンは、1問20点。5問回答すると100点、獲得できる点数が高くなるように設定されています。「学生時代でもそんな高得点を取ったことはなかったのに」と、ご入居者がどんどん意欲を高められるような工夫が凝らされています。それも、「脳トレを通じてホーム内のコミュニケーションを活性化したい」という、T様の思いと配慮があってのことです。
年末には高得点をとったご入居者を発表するイベントも予定。 「どんな回答したのか見せて」とほかのご入居者から質問され、さらに会話のきっかけが生まれる未来予想図も。

脳トレの採点もすべてT様が行っており、当初ホームでは問題用紙の印刷のみお手伝いしていました。しかしスタッフたちも取り組みの楽しさに気づき、「ぜひ私も参加したい」と進んで協力するようにまで変わってきています。

3.新たな目標を持ち、脳トレをさらに定着させたい

T様やスタッフが思う以上の盛り上がりを見せた脳トレ。さらに有意義な時間になるよう、T様は脳トレのブラッシュアップを続けています。図鑑を読むなど、ご自身の知識や見識を深め、出題範囲を広げると同時に回答に困っている方にヒントを出すための準備も始めました。

「ゆくゆくは、脳トレを通じてコミュニケーションをとるようになった入居者同士で協力し、ホーム内にあるテラスで野菜作りを楽しみながら日向ぼっこをしたい」と考えるT様。
一人のご入居者から生まれた楽しい取り組みに、クラーチ・ファミリア稲田堤から今後も目が離せません。

ライター:加藤 小百合