No.7|「小さな従業員」が大きな力に。アニマルセラピーがもたらす癒しと活力

介護施設のマンパワーと言えば、そこに所属するスタッフがまず思い浮かぶでしょう。スタッフならではの細やかな気配りと優しさが、入居される方にとって大きな支えになります。

そんな中、意外な存在が入居者の方々の癒しとなり、生きる活力になっているのだそうです。今回は、クラーチ・エレガンタ本郷とクラーチ・ファミリア光が丘公園が取り組んでいるアニマルセラピーをご紹介します。

1. 動物との触れ合いに託した可能性

クラーチ・ファミリア光が丘公園では今年度からハムスターの飼育を始めました。

その目的は、ご入居者と動物との触れ合いです。目で見て、時には実際に触れ、動物の生きる姿を日常的に観察することで、ご入居者の日常生活や精神面にどのような変化が現れるのかを知るためでもありました。

【①アニマルセラピーとクラーチのミッション】
今回のアニマルセラピーは、クラーチのミッションにも深くかかわっています。

クラーチでは、「あきらめない心を支える」ための様々な取り組みをしていますが、クラーチ・ファミリア光が丘公園では、

・ご入居者の自発的な努力を引き出し、生活に明るさを
・スタッフのメンタル維持や労働環境の改善

を目標としています。そして動物との触れ合いによりご入居者の生活に明るさがもたらされ、またスタッフの癒しとなり労働環境が改善されると考えました。

まさにアニマルセラピーはそれらの目標の実現を大きく後押しするものでした。

2.メダカとハムスターに託されたアニマルセラピー

アニマルセラピーの取り組みの一環として、クラーチ・ファミリア光が丘公園が飼育しているハムスターをクラーチ・エレガンタ本郷に派遣する、「出張ハムスター」が始まりました。

【①メダカの飼育から生まれたアニマルセラピー】
「出張ハムスター」のきっかけとなったのは、メダカの飼育です。
クラーチ・ファミリア光が丘公園では、設立当初からメダカを飼育したのですが、水槽の中で悠々と泳ぐメダカは、ご入居者の人気者でした。レストランに続く通路の途中に水槽があるためか、ご入居者は食事に訪れるたびに水槽を確認します。なかには産卵の様子や子メダカの成長など、細かな変化をいち早く見つけてはスタッフに報告される方もいらっしゃいました。

メダカという小さな命の観察が、ご入居者にとっての日課になりました。そんなメダカの活躍ぶりをみて、光が丘公園と本郷はハムスターで同じような効果を得ることができるのではと考え、実践することに。

【②「出張ハムスター」が想像以上の効果に】
光が丘公園のホームから、本郷ホームに出張した小さなハムスター。看護スタッフやリハビリスタッフ、カフェスタッフたちの協力を得つつ、ハムスターとご入居者との触れ合いが始まりました。

ハムスターの愛らしさと力強さはご入居者の癒しとなると同時に、生活面でも想像以上の変化をもたらしています

【②-1毎日のリハビリを頑張れるようになった】
ご入居者のM様はパーキンソン病により手足が不自由となり、車椅子の操作を苦手としていました。不安を抱えやすく、周囲に意思を伝えることにも苦手意識を持っていましたが、ハムスターとの出会いから、全てが一転しました。
今ではレストランの席からハムスターのゲージまで、車椅子で異動するリハビリを毎日続けるようになりました。また、以前にハムスターを飼っていた経験があるとのことで、懐かしさを感じられ、穏やかな表情をされることが増えました。

【②-2筋力維持のきっかけにも】
Y様は入居当時こそ杖で生活していたものの、その後は体力も低下し、車椅子生活に切り替えていました。自立心が強く、ご自分でできることは何でも自分でしようとされるものの、体力面で心配なことも多くありました。
そんなY様の楽しみは、食後にお部屋へ戻られる時にご夫妻でハムスターを観察すること。車椅子のブレーキを一旦止め、立ち上がってハムスターを眺めることが屈伸運動となり、体力や筋力の維持に役立っています。

【②-3生活リズムと心に落ち着きが生まれた】
視野狭窄に悩んでいたT様は、レクリエーションや体操などへの参加も困難な状態にありました。頻繁に「トイレに行きたい」と口にされるご様子や、昼夜逆転の生活リズム、コミュニケーションの困難さから表情もどこか晴れず、スタッフも心配をしていたほどでした。
ところがハムスターとの触れ合いを勧めると、笑顔で抱きしめ、表情に穏やかさも戻り、落ち着きを取り戻してきています。

3.アニマルセラピーの成果と今後の展望

アニマルセラピーと同時に顔認証AIでご入居者の表情を判定して見ると、導入前よりも笑顔が増えたことがわかっています。

また何より、

・人と人との繋がり
・ご入居者の探求心
・ご入居者の自立と努力

の後押しもしてくれ、「動物との触れ合いは人の心をそれほど大きく動かすものなのか」と驚いています。

【①アニマルセラピーの今後にも期待】
クラーチ・ファミリア光が丘公園では、アニマルセラピーで得られた学びを、ご入居者の生活に役立てることを計画しています。

まず「長期的な認知症ケアへの応用・メンタルケア」では、

・当番制:役割を持つことでご自分の居場所を作る→社会参加
・他者との交流:人間らしさを引き出す→認知症改善
・職場環境の改善・従業員の働きやすさ→スタッフの定着率改善

など、多くの取り組みを進めていきます。
また、アニマルセラピーを拡張させた施策として、他ホームにもアニマルセラピーを広げていくこと、見学に来られる方をご案内することにもつなげていきます。

小さなハムスターとの出会いが、大きな力に。アニマルセラピーの今後に、期待が高まります。


ライター:加藤 小百合