No.5|「出会い」と「想い」で一歩先へ。朗読が私の背中を押してくれた

介護施設で企画されるリクリエーションは、入居されている方にとっての憩いや癒し、時に励みになります。しかし、時にはそれらを提供する側にとっても、大きな学びや成長となるのです。

今回ご紹介する朗読リクリエーション企画は、それを確認するための貴重な気づきになりました。

1.おとなしい少女と朗読との「出会い」

クラーチ・ファミリア宮前の朗読リクリエーションを主催したNさんは、現在高校2年生。もうすぐ春休みに入るということで、自宅学習に励み、テスト結果への期待を膨らませるなど、高校生らしい毎日を送っています。

そんなNさんの性格は、お母様によると「とても人見知り」。Nさん本人も「人前で話すことが苦手で、あたふたしてしまう」と、ご自身をシャイな性格と捉えています。

その一方で、昔からアニメが好きで、声優の仕事に興味を持っていました。学校でも放送部に所属しており、2024年には初めてコンテストに出場したほか、学園祭では朗読会を実施。アニメを鑑賞することや絵を描くこと、特に歌うことが好きで1人でカラオケに行くなど、表現を通じた趣味を持っています。

【①朗読を通じてさらなる成長へ】
そんなNさんには、「自分の声を活かして、誰かの喜びや幸せに役立つような、素敵な機会を作りたい」という想いがあります。とは言え、コロナ禍の影響もあり、部活動で実践できることには限界がありました。

そんな中、Nさんは犬の散歩の際に近くをよく通っていた、クラーチ・ファミリア宮前の存在に気づきます。最初は「素敵なカフェ」だと思っていたそうですが、老人ホームと知り、自身のそのような想いを形にするために「朗読会を開くことができないか」と問い合わせることを決めたのです。

2.緊張した中で迎えた、朗読の日

意を決してみたものの、クラーチ・ファミリア宮前への連絡は「大冒険」。「私にはできないから、お母さんお願い!」とお母様に代わりに連絡してもらったほどで、お母様としても「本当に人前で話せるのかしら・・・」と心配するほどの緊張ぶりだったそうです。

確かに心配もあったのですが、Nさんは朗読会に向けて着実に準備を進めていました。
朗読会の題材に選んだのは、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』。高校の文化祭で朗読した経験があり、「慣れている作品であれば感情をのせやすいと思ったから」とのことでした。また、『蜘蛛の糸』は有名な作品であり、多くの世代が知っていることから、楽しんでもらえるとの思いもありました。

また、高校の放送部の活動を通じて、滑舌の練習や発声、腹式呼吸を意識した声の出し方を磨くなどの準備も怠りませんでした。

【①Nさんの成長が見られた1日】
そして迎えた、朗読会の日。「ものすごく緊張した様子で家を出た」とお母様が振り返るほどの不安を抱えていたNさん。実際に入居されている方々を前にしてみても、しばらく頭が真っ白だったそうです。そこでスタッフがNさんと入居者がお話しする機会を用意。朗読にスムーズに入っていけるまで落ち着くことができました。

朗読を進めるNさんはとても落ち着いていて、読み方にも抑揚がありました。入居されている方々も集中してNさんの声に耳を傾け、充実したリクリエーションになったそうです。

【②「一つ壁を越えることができた」】
Nさんの成長は、お母様から見ても明らかでした。自己紹介から朗読、質疑応答の流れで進められたリクリエーション。お母様はNさんが質疑応答でしっかりと話せるかを心配していましたが、その心配は杞憂に終わり、Nさんは想像したよりも多く、積極的に話すことができました。

そんなNさんの姿を目の当たりにし、お母様は「一つ壁を越えた」と話します。人前で話をするという機会を自ら作り、一つ大きな階段を上ったことで自信がついたように感じられたそうです。
ご入居者の中には耳が不自由な方もいらっしゃったのですが、皆が本当に優しく、Nさんの言葉をしっかりと聴いてくださったこともお母様にとって嬉しかったそうです。

3.喜びを求め、もっと成長したい

Nさんによる朗読リクリエーションはとても好評でした。参加された方々は朗読を楽しむことはもちろん、「孫みたいで可愛い」とNさんに温かく、優しいまなざしを向けられていました。こうして朗読リクリエーションは、Nさんにとっても、入居されている方にとっても心温まるひとときになったのです。

Nさんの成長を喜びつつも、すでに次の計画が進んでいます。
「人と話すのは苦手だけれど、自分の得意な朗読を活かして色々な方と接する機会を持ちたい。多くの方と仲良くなれるし、目の前の人に自分の想いを伝えられる」。Nさんは第2回として、宮沢賢治の『注文の多い料理店』を初披露することを決めました。「ご入居者はもちろん、ご家族の方や興味を持つ方、近隣の方にも来ていただきたい」と話しており、参加される方も増え、賑やかな会になることが予想されます。

また、「朗読が私の背中を押してくれました」と語るNさんは、朗読会だけでなく、一緒に絵を描いたり歌を楽しんだりするイベントの開催も視野に入れています。Nさんの挑戦と成長、ご入居者の喜びが混ざり合った素敵な憩いの場が今後も創り上げられることでしょう。


ライター:加藤 小百合