No.3|『創る』ということが生み出す喜び

介護施設に入居するというと、身体の状態が深刻であるほど不自由が多く、悩みも増えると思われがちです。しかし、ある程度自立した生活ができるご入居者であっても「『なんでも自分でできますよね』と任され、1人の時間が多い」「他の入居者やスタッフとの関わりが少ない気がする」など、軽視できない悩みがあります。

身体がどんな状態であっても、QOL(生活の質)の向上と幸せな毎日は大事。そこで、「クラーチ・ファミリア佐倉」では、自立度が高い一方で孤立しがちなご入居者を対象とした手芸クラブを立ち上げました。

1.自立度が高いために感じやすい「寂しさ」

クラーチ・ファミリア佐倉は、10年目を迎える介護付きホームです。年数がたつにつれてご入居者の介護度も上がり、日常生活での介助が必要な方も多くなっていました。

そんな中で悩みを抱えるのが、自立度の高いご入居者です。「スタッフに話しかけたくてもみんな忙しそうで、遠慮してしまう」「生活に張り合いがなく、毎日が退屈に感じる」「自由時間も自室で過ごすことが多く、できることと言えばテレビ鑑賞」「みんなとお話がしたい!」との思いを抱く方も少なくなかったのです。

また、クラーチ・ファミリア佐倉は女性のご入居者が多く、男性のご入居者の中には少し孤独な思いをしていた方もいたそうです。

2.自立に特化した手芸クラブが誕生

このようなご入居者を思い、クラーチ・ファミリア佐倉は自立度が高いご入居者を対象とした手芸クラブを立ち上げました。ご入居者の多くが手芸を経験していることもあり、編み物や縫い物、パッチワークの小物入れやティッシュケース、マグネット、マスクケース、アクリルたわしなど、幅広い種類から取り組みを決められるように準備しました。「自立度が高い方のQOL向上のため、サロンのような場所を作ろう」というアイディアが、手芸クラブとして形になったのです。

2024年2月から始まったクラブの参加者は当初約10人でしたが、今では15人にまで増えています(2025年1月末現在)。

3.さらなる自主性と主体性を促すきっかけに

こうして始まった手芸クラブも、最初からうまくいったわけではありませんでした。いざ集まったメンバーも、「手芸は好きだけれど、何をしていいかわからない」「自分が不器用なところをまわりに見られたくない」「作りたいものが決められない」など、消極的かつ受け身な姿勢が見られたのです。

そこで、そんな悩みも交流のタネに。生地や糸、配色などは事前にスタッフが決め、段々と慣れてきたら自分好みの作品を考えるようにしていきました。今ではお互いにアドバイスしながら決めるようにもなり、自主性だけでなくご入居者同士の交流も深まるようになっていきました。

また手芸クラブでは、敢えて計画性を持たせない方針を打ち出しました。その場、その時でご入居者の意見を取り入れることで、ご入居者も「自分の意見を受け止めてくれる」「思っていることを伝えてもいいんだ!」と、心が開けていくと考えているためです。

唯一の男性メンバーは、エプロンづくりに取り掛かりました。「歯磨きをする時に、歯磨き粉が服にかかってしまう時がある。そんな時にエプロンがあれば」と、ご自分の生活に紐づいた作品作りができています。

ある女性メンバーは、3センチ角の布をどんどんと繋げていくパッチワークに挑戦。徐々に長さは増し、ついには1メートルに届くほどにまでなりました。色のバランスも良く、一目見ると明るい気持ちになれます。ほかにも、色とりどりの花飾りやアクセサリーなど、ユニークな作品が次々と生まれています。

4.リスクにも挑戦する姿勢が、クラブの広がりに

順調に広がりを見せる手芸クラブも、時に試練に向き合うこともありました。

一つは、コロナ禍での開催。介護施設・事業所でも感染が心配され、リスクを感じることもありました。それでも、手芸クラブのメンバー全員が参加を希望したため、少人数での開催や頻度の軽減、アルコール消毒をはじめとする感染対策の徹底など、「どうしたらコロナ禍でも手芸クラブを続けられるか?」を模索し続けました。この経験は、新型コロナウイルス感染症との付き合い方を考えるうえで今でも生かされています。

さらには、アイロンがけや刃物の使用など、怪我のリスクがある作業にも挑戦しました。通常なら避けたくなることも、一歩先の難しいことに取り組み、達成した時のメンバーの感動、自信は格別なものでした。

5.挑戦が生み出す新たな喜び

手芸クラブの活動は、ご入居者が単に趣味の時間を過ごすということに留まりません。自分の作品を部屋に飾ったり、実際に使ってみたり。ご家族もそんないきいきとした姿を喜び、作品をリクエストすることもあるそうです。

ご入居者同士の交流の輪も広がりました。「自分が得意なことをみんなに教えてあげたい」「○○さんの作っているものを自分も作ってみたい」など、お互いが教え合う文化も生まれています。

6.今後の手芸クラブにも期待が高まる

現在、クラーチ・ファミリア佐倉の手芸クラブは、ご家族を招いた作品展の開催やバザーでの作品販売などを計画しています。作品を発表し、売り上げで社会に貢献できれば、「自分の作品が何かの役に立っている」とご入居者の自己肯定感は向上し、よりアクティブに日々を過ごせるようになっていくことでしょう。今後の活動がどんな喜びを生み出すか、楽しみでなりません。


ライター:加藤 小百合